前回のエントリで弊社が目指す「ブランディングデザイン」とは「デザインの力で社会全体の効用を高める」ことだと紹介しました。「効用」を高めるとは「満足度の度合い」を高めること。「満足度の度合い」を高めるためには、実際に投資した”時間や価格”以上の”価値”を感じてもらう必要があります。
生産者と消費者では同じものを「見て」いても、「見えて」いるものは違います。
生産者は「良いものを作れば売れる」と驕らず、消費者にも分かるように”価値”を伝え、”価値”を感じてもらう必要があるのです。
「見て」いるのに「見えなかった」ことを、「見える」ようにしていく
“価値”を伝えるには、伝えたい相手に、伝わりやすい形で表現する必要があります。この「アウトプット」においてデザイナーは最も力を発揮します。
打ち合わせ時に意思疎通のために絵を書くこと、取引先に企業のビジョンを伝えるためにコーポレートサイトを制作すること、商品を想起しやすいようにロゴを制作することなど様々なアウトプットの形があります。
今回は「はじめて」をテーマに、この3年間で取り組んだプロジェクトから3つのアウトプットを振り返ってみます。
靴のカタチ〜靴職人 三澤則行の軌跡〜
弊社ではじめてとなる漫画での表現を試みたプロジェクトです。
世界的靴職人・アーティストである三澤則行さん(@noriyukimisawa)の半生を一冊の漫画にまとめるのに一年以上の時間を費やしました。異国での修行経験から得た知見や、自らの考えを様々な靴の「形(カタチ)」で表現する芸術性など、何もかもが超一流であり、私たちをものづくりの魅力に引き込んだプロジェクトと言えます。
ここでの経験がのちのち、「見ているものと見えているものは違う」とぼんやりと頭の中にあったイメージを言語化できるきっかけであり、現在のThe FANを形作っているといっても過言ではありません。
漫画の読書体験を高めるために特設サイトも開設しました。三澤さんの作品写真も見て欲しいとの思いから、各話で登場する実際の作品をストーリーに合わせて配置しました。
この漫画が三澤さんの工房へ訪れたり、展示会へ足を運ぶきっかけになることを心から願っています。
司法書士/行政書士 ひろい事務所
このプロジェクトではじめて「士業」のクライアントさんのVIを担当させていただきました。「士業」はAIによる代替可能性が高いと言われている業種の一つです。実際に顔を合わせることなくメールや電話のみで依頼が完結する場合もあれば、専門知識がない人でもクラウドソフトなどを活用して安価で高速な書類作成や申請が可能な世の中になってきています。
弊社でもそういった種のサービスを利用したことがあります。利用時のことを思い返してみると「この内容で申請して大丈夫だったかな〜」「提出先に漏れはないかな〜」と数日間ソワソワしていたように思います。専門家に依頼した時も、依頼先から手続き完了のメールと、数ヶ月後に行政からの受理通知が来て、そう言えば申請してたな、と思い出す程度。それ以降「士業」に対してどこか冷たい印象を持ってしまっていたことに気づきました。
同社代表の本庄さんは「士業」は普段どんな仕事をしているのか、どのような経緯で問い合わせをもらうのか、など無知な私たちに丁寧に説明してくれました。「対話」を通じて。
AIや格安サービスとの違いは「対話」の質にあると確信をもった出来事でした。
人と「対話」することは人にしかできません。機械的なやりとりではなく、行政と依頼者との間に「人との対話」が介在する意義をロゴを通じて表現したいと考えました。
広い知識を得るため日々学ぶ姿勢を持つこと、些細な相談でも拾いの手を差し伸べること、そして代表司法書士の名前。同社にとって多義性を持つ「ひろい」という言葉を、「人の暖かみ」が感じられる視覚情報にすることをテーマとしました。テーマが決まったところで、法律を扱う業界の特徴も意匠に取り入れながらデザイン案を作っていきました。
初回のデザイン提案時には嬉しい言葉をかけていただき、完成まで一気に駆け抜けた思い出深いプロジェクトです。同社の顔として永く愛される存在になって欲しい!
KAERU-カエル-
「伝統的工芸品を再び人とお金が集まる産業へ」をコンセプトに掲げた、はじめての自社サービスです
「伝統を守ることは大切だ」と言うのは容易いことです。しかし実際に商品を購入したり、職人や販売員として従事する人の数は減少しており、伝統を守るためのアクションを起こす難しさを示しています。需要の減少は伝統的工芸品自体の”価値”が減少しているわけではありません。
メディアサイトでは、十二分に存在している伝統的工芸品の”価値”を伝え、伝統を守るためのアクションを起こすきっかけになるようなコンテンツ作りを目指しています。みなさん、メディアサイトにも是非お越しください!(https://kaeru-kogei.com/)
現在伝統的工芸品産業はその規模が縮小し続けています。この現状に負けないために必要なことは何か。「だるま」のように「七転び八起き」。何度でも立ち上がるあきらめない心。過去に「かえる」ことで温故知新の知見を得て、それをもってめげない意思を持って進んでいけば、日本の伝統工芸業界は明るくなっていくと信じています。
2024年の展望
この3年間を振り返ってみると本当に素敵な出会いに恵まれているなと、あらためて感じます。いろいろな「はじめて」にチャレンジする中で、うまくいかないことも少なくないですが、クライアントさんやパートナーさんに、たくさんの知恵を貸していただきながら、たくさんの経験をさせていただきました。
これからも「はじめて」へのチャンスがあれば、どんどんチャレンジしていきたいと思っています。そして一過性の流行に惑わされることなく、タイムレスなデザインで、永く企業の顔であり続け多くの人々に愛される、”価値”が見えるようなアウトプットができるように、表現力を高めていければと思います。2024年も、The FANをどうぞよろしくお願いいたします。